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「おぉ、延台輔。遠いところをよくこられたな。」

範国の王である氾王は目の前に立つ六太を見て嬉しそうに微笑む。
六太はその微笑に嘘ら寒いものを感じながらも、国王を訪問した際の一応の礼儀としてその場で拱手する。

「この度はお招き頂きありがとうございます。範西国の王、氾王様においては、お変わりない様でなによりでございます。我が国の王も範国のますますの発展を祈って・・・って、挨拶は面倒だからここまで!」
「相変わらず、持続力がないのぅ。」
氾王が呆れたように持っていた扇子をぱちんと閉じる。
周りに跪く範国の側近達は長い付き合いの中で延麒の気性をすでに知っているのか、くすくすと笑いながらその状況を見つめている。
「悪かったな。」
六太が悪びれた風もなくその場でふんぞり返る。

「延王はお元気でいらっしゃるか?」
氾王がやんわりと尋ねる。
「あぁ、おかげさまでな。まだ、あんたから逃げ回る位の元気はあるみたいだ。」
「お主は麒麟であるのにほんに口が悪いのぅ。」
「余計なお世話だ。で、オレに何の用だ?」
六太は用件を早く済ませたいとばかりに、話の先を促がす。
「そう、せかさずともよいに。」
「オレもそう暇ではないんでな。」
六太にそう言われ、氾王はやれやれと肩をすくめる。

「実は延台輔に折り入って頼みがあってな。」
「頼み?あんたが、オレに?」
六太が訝しげな顔で氾王の顔を見上げる。
「そうじゃ。」
「へー、珍しいこともあるもんだな。ところで、小姐ちゃんは?姿が見えないみたいだけど・・・」
その言葉の通り、いつも氾王に寄り添うように隣に立つ範国の麒麟、氾麟の姿が見えない。

「頼みとはな、その梨雪のことなんじゃ。」
「小姐ちゃんのこと?」
六太が首を傾げる。
「実は、梨雪がもう1月以上部屋から出てこなくてのぅ。」
「小姐ちゃんが?どうして?」
「どうも、芳の一件でまいってしまったようでね。」
氾王は困ったように美しい顔をしかめる。
いつも表情を崩さない氾王が他人にこのような顔を見せるのは珍しい。
「芳って・・・確か、ひと月前に謀反が起きて、峯王と峯麟が殺されたんだったよな?峯王は度が過ぎた法を行使していたからな。いつかはこんなことになるんじゃないかとオレ達も危ぶんでいたんだが・・・」
六太が考え込むように腕を組む。
普段は子供のように見えても、こうして真面目に考え込んでいる姿には、長く生きた年月を感じさせるものがある。

「それで、かなり落ち込んでしまってね。」
「そっか、小姐ちゃんは峯麟と仲が良かったもんなぁ・・・」
六太は納得したとばかりに大きく頷く。

蓬山に訪れたときに知り合ったのがきっかけで、氾麟は峯麟を妹のように思っていた。
範と芳は海を挟んでいるとはいえ、距離的にはそう遠くもない。
そのせいか峯麟が王を選定し、下山したあとも頻繁に連絡をとりあっていたと聞く。

「今回ばかりは私がいくらなぐさめても部屋からでてきてくれないので困っておる。そこで同じ麒麟のお主なら、気持ちも少しはわかるのではないかと思ってな。」
「それでオレを呼んだのか?」
「遠くから悪いとは思ったのだがな。」
氾王はすまなそうに頭を下げる。
「頼む。梨雪を励ましてやってはくれぬか?私は、梨雪のあんな姿を見るのは辛くての・・・」
そう言った氾王の顔はいつもの余裕がある様子とは違い、哀しみに満ちていた。
「わかった・・・」
六太は神妙な顔で頷く。
「頼まれてくれるか?」
「あぁ。うまくいくかどうかはわからないけど、なんとかやってみるよ。」
六太はそう言うと、氾王を安心させるように明るく笑った。




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