楽園
「楽俊、こっちこっち〜」 「ちょっと待てよ、陽子」 陽子は久しぶりに金波宮を訪れた楽俊を、庭園に案内していた。 仕事からの解放、楽俊が来た喜びで陽子はいつになくはしゃいでいた。 そんな陽子を見て楽俊は微笑む。 出会ったばかりの陽子は、楽俊に対して笑うことなどなかった。 「らーくしゅーん?何立ち止まってるの。こっちだよ」 「ああ、今行く」 「ほらほら、早く〜」 せかす陽子の声に、楽俊は急いで陽子の元へ走った。 「おー、きれいだな」 陽子の隣に立った楽俊は感嘆の声をあげる。 そこには美しい庭園が広がっていた。 「予王が昔使っていた庭園を私の好みに合わせて、作り直させたんだ。手入れはしてあったんだけど、私と予王じゃ好みが違うみたいで……」 「結構わがままになったな」 楽俊がそういうと、陽子はバツの悪そうな顔をする」 「……だめかなぁ?」 「だめじゃないさ。それが王として大事なんだよ」 「そう?」 「王になったばかりの時はどうだった?なかなか官はお前の言うことを聞こうとはしなかっただろう。それが今では、国のこと以外の自分のわがままを通せるようになったんだ。王としての威厳が出てきた証拠さ」 その言葉を聞いて陽子は微笑む。 「王様の威厳かー。じゃあ、少しは皆に認められたって事なのかな?」 「そうさ。陽子はこの庭が出来た時、どう感じた?」 「うん?そうだな……。自分があれこれ注文して作ってもらったとはいえ、想像以上って言うか……。ここに来ると安らぐかな」 「それは官たちが陽子が時にはゆっくりできる場所を提供するために、心を込めて作ったって事さ。ゆっくり休んだ後は、いつものようにお前に国を引っ張って行ってもらいたいからさ」 陽子は楽俊の言葉をゆっくりかみ締める。 「だから安らぐんだね。私に国を豊かにしてもらいたいから。その想いが詰まっているから」 「そう、官たちはお前に国を豊かにしてもらいたいんだ。信頼しているんだよ」 「なんかあたたかいね。私の家族……お父さんやお母さんには、もう会えないけれど……、でも私にはちゃんと新しい家族がここにあるんだ……」 陽子はしゃがんで、近くに咲いていた花を手に取った。 「うれしいね。こういうの」 「大きくなったな、陽子。今の陽子を見ていると、本当に王様なんだって改めて実感するよ」 「ありがとう、楽俊」 「すげえ大国作って、おいらに見せてくれよ、陽子」 「うん」
美しい庭園にあたたかい光が降り注ぐ。 まるで陽子の王気のように。 そんな光でいっぱいのここは、慶国の楽園。 慶の行く末を見続ける、二人の楽園。
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